ASEAN JAPAN CENTRE 日本アセアンセンター

The people of ASEAN-Japan

アジアのコーヒーに新しい文化と平和の種あり!【山本博文さん】

コーヒーは発祥の地とされるアフリカや、ブラジルなどの中南米での栽培・生産が盛んです。しかし、インドネシア、タイ、ラオス、ミャンマーなど、東南アジアの国々で生産量も増えており、質においても知名度が上がってきています。ASEAN地域をはじめ、30カ国以上のコーヒーを扱う「海ノ向こうコーヒー」産地担当の山本さんにお話をうかがいました。

机上の学問から生産地、実学へ
生産地に教わった本当の豊かさ

― コーヒーに関する経歴を教えてください。

大学時代、自家焙煎の喫茶店に連れて行ってもらったことからコーヒーが好きになりました。社会学を勉強していて、当時はアメリカ同時多発テロやイラク侵攻があり、国際問題に興味を持っていました。それなのに、勉強するほど絶望していくんです。でも、まずは、喫茶店などの身近な場所で何気なく交流するような目の前の人とどう向き合うかの方が大事。平和ってここから広がっていくやろ! という思いが芽生えました。そこで、喫茶店が持つコミュニティを作り出すという機能に惹かれました。コーヒーそのものにももちろん興味がありますが、「コーヒーを通じて人と人がどのように関係を築き、文化を生み出すのか」、といったことが面白いと思っています。

― 卒業後はどんな仕事をされたのでしょう。

喫茶店などで働きました。すると、コーヒーの生産地や栽培についても知りたくなったのでフィリピンの山奥の大学へ入学。英語も全くできない状態で行きましたが、農家さんを含めフィリピンの方たちはきれいな英語を話すので、栽培を学びつつ英語も自然と上達しました。そんな折、コーヒーを通じて現地の人の生活改善・収入向上を目指すコミュニティ開発の仕事を依頼されるようになりました。困難も失敗もあり、農家さんたちからたくさんのことを学ばせてもらい、関わりを深める中で、「彼ら彼女らは貧しいから助けないといけない」という考えが一変しました。大自然に囲まれ、貨幣ではなく土地や家、家畜をどれくらい持っているかが幸せの指標。生活にコーヒーがマッチし、実に豊かなのです。

焼き畑から、森を育てながら
できるコーヒー栽培へ

2023年1月にベトナムの産地を訪れた際、農家さんに精製方法や設備をレクチャーした

― 今勤めておられる坂ノ途中の海ノ向こうコーヒーは、生産国と消費国のウィンウィンの関係構築を大切にされています。これまでの経緯やエピソードをお聞かせください。

母体となっている坂ノ途中の事業の目的は、環境負荷が少ない有機栽培野菜を広めることです。これは海外でもできるはずとアフリカを視野に入れていましたが、プロジェクトベースでは助成金の使い方などで葛藤することも。では、アジアで何ができる? と考えはじめた折、ある機関の方から「ラオスのルアンパバーンの森林減少について何かできませんか?」と相談されました。

― すぐお金になる野菜栽培のため焼き畑をし、森林が損なわれているということ?

ラオスで行われている焼き畑の風景
コーヒーチェリーを収穫する農家さん

年々焼き畑のサイクルは早まり、土地の保水力も低下します。その点、コーヒーは植林をしながら森で育てられ、換金性も非常に高い。ただ、栽培開始から出荷まで2、3年かかるので、コーヒーが村にとって本当にいいものか徹底的に調べ、時間をかけて納得してもらうまでお話をします。そうすることで、少しでもソーシャルインパクトがある事業にしています。

最近では海ノ向こうコーヒーの若いスタッフも産地に赴き、コーヒーの生産現場を体験したり、農家さんと直接コミュケーションを行ったりしている

― 印象に残る国はどちらですか。

東ティモールです。コーヒー栽培の歴史が長く、昔ながらの在来種が残る土地です。優れた技術とプライドのある農家さんたちに、「国際マーケットで売るなら、さらに品質を高めることが大事」と理解してもらうのは大変でした。英語は通じないので、現地語のテトゥン語も勉強してコミュニケーションをとりました。国それぞれで農家さんのマインドも違うので、伝え方やワークショップの仕方を国ごとに工夫して実施しています。

生産国であり消費国としても
急成長する東南アジア市場

― 東南アジアのコーヒー豆の味の特徴は?

東南アジアで生産されているコーヒー

インドネシアは島国で、島ごとに品種も加工方法も多種多様。アジアに多いカティモール種の好ましくない香味を消す加工技術もあります。ミャンマーは中米を思わせる香味、タイは若い農家さんが多く、麹菌でコーヒー豆を発酵させるなどのユニークな取り組みも。フィリピンも島ごとに特有の品種があり、世界最高とも呼ばれるゲイシャ種に劣らない芳香を持つものもあります。それが自生しているなんて、ポテンシャルの高さしかありません。

SCAJ2022では、インドネシア、ミャンマー、タイ、インドで農家さんと一緒にコーヒーづくりに取り組むパートナーを招き、セミナーを実施。日本のロースターさんとの交流を深めた

― 喫茶店がファースト、セカンドとブームを牽引し、ブルーボトルコーヒーがサードウェーブを起こし、コロナ禍をきっかけとしてフォースウェーブが広がりつつあります。次はアジアでさらに新しい動きが生まれそうですね。

スターバックスに追いつけ追い越せと市場が成熟し、生産者さんも自分たちでカフェを開きはじめていて、楽しみです。特にインドネシアやタイは自国での生産のみならず消費も増えているので、マーケットとしても注目の地域です。インドネシア資本のコーヒーチェーンも勢いがあります。

マイクロミルプロジェクトで設置した小さな精製所

― ミャンマーのコーヒーも注目度上昇中ですね。

魅力的な生産地ですが、政情は不安定です。だから、コーヒーを収入源に、農家さんたちの生活の安定に貢献したいです。最近では2020年にマイクロミルプロジェクトを立ち上げました。日本国内のロースターさんからの協賛金で、15の村にコーヒーチェリーの水洗加工場を作りました。農家さんがコーヒーの栽培だけでなく、村や庭先でコーヒーチェリーの加工まで行うことで、市場価値がグンと上がります。さらに、毎年仕上がりをフィードバックして、現地パートナーであるジーニアスコーヒーが農家さんに対してトレーニングを行っているので、さらに品質が良くなっていっています。ロースターさんと農家さんとのつながりも深まってきました。

― 東南アジアは、消費国としてはどうですか?

欧米や日本、韓国などの影響で、おしゃれなカフェもたくさん。品質を追求する人がいる一方で、コンデンスミルクを入れたり、創作ドリンクを作ったりと自由なコーヒー文化ができています。そういうところを含めてアジアって楽しいなと思います。

山本 博文 さん

コーヒー栽培技師として数々のプロジェクトに携わったのち、2020年に株式会社坂ノ途中に入社。海ノ向こうコーヒー事業部の産地担当として、様々な産地の農家さんやパートナーと一緒にコーヒーづくりに取り組んでいる。

取材・文/木村悦子 写真提供/海の向こうコーヒー

登録されているカテゴリー
Business Food & lifestyle

The people of ASEAN-Japanの一覧ページへ戻る