主なポイント
- 複数のFTAの中からの戦略的選択
マレーシアと日本は、日・マレーシア経済連携協定(MJEPA)、日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、RCEP、CPTPPといった複数のFTAで結ばれており、それぞれ異なる関税メリットや遵守要件を有しています。企業は、関税削減効果と手続きの簡素さの最適なバランスをもたらす協定を選択する必要があります。
- 日本の構造的ニーズとの整合
輸出の成功には、高齢化社会(シルバーエコノミー)、高い品質・安全基準、グリーントランスフォーメーション(GX)およびデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速といった、日本の優先分野に製品やサービスを適合させることが不可欠です。
- 原産地規則は優遇措置への入口
特恵関税は、製品が特定の原産地規則(Rules of Origin)を満たす場合にのみ適用されます。これらの規則は、関税の減免や無税措置の適用可否を左右します。
- オペレーションの卓越性が信頼を構築
日本企業とのビジネスパートナーシップでは、小規模な取引から一貫性と正確性が求められます。展示会への参加や直接的な対話は、長期的な市場参入において引き続き重要です。
- 制度的支援が実務的成果を後押し
日本アセアンセンター(AJC)、JETRO、MATRADEといった機関は、自己申告制度の活用拡大を含め、FTAを具体的な商業価値へと転換するうえで重要な役割を果たしています。
協定から実践へ:マレーシア・日本間貿易における実践的FTAの活用
2026年1月29日、日本アセアンセンター(AJC)は、マレーシア投資・貿易・産業省(MITI)およびJETROクアラルンプール事務所との共催により、「協定から実践へ:マレーシア・日本間貿易における実践的FTAの活用」と題したFTA利用促進セミナーを、クアラルンプールのダブルツリーbyヒルトンにて開催しました。本セミナーは、日本の経済産業省(METI)の参加を得て開催され、マレーシア・日本間貿易におけるFTAの実践的活用を推進する両国の強いコミットメントを示すものとなりました。
本セミナーには、主に製造業分野の企業関係者、マレーシアおよび日本の輸出志向型中小企業(SMEs)や貿易支援機関等の関係者80名以上が参加しました。セッションを通じて、参加者はFTAの選択、原産地規則の遵守、関税削減効果、実務上の課題などについて、実践的な質問を積極的に投げかけました。
セミナーの目的
本セミナーは、戦略的なFTA選択、原産地規則への対応、関税最適化に関する実務的理解を深めるとともに、ビジネス志向の具体的なガイダンスを通じて、中小企業が日本市場へ参入・拡大する自信を高めることを目的としました。
開会挨拶:枠組みから商業的価値へ

マレーシア投資・貿易・産業省(MITI)上級局長のスグマリ・シャムガム氏は、開会挨拶において、FTAが中小零細企業(MSMEs)が貿易の枠組みを具体的なビジネス成果へと転換するうえで果たす役割の重要性を強調しました。
また、FTAがMSME(零細・中小企業)にとって貿易の枠組みを具体的なビジネス成果へと転換する重要な手段であることを強調しました。
同氏は、2025年における二国間貿易額が約1,830億リンギットに達したことや、日本企業の96%以上がマレーシアでの再投資・事業拡大を計画していることを挙げ、マレーシア・日本間の経済関係の強さを示しました。また、MJEPA、AJCEP、RCEP、CPTPPを効果的に活用することで、スマート製造、脱炭素、AI、ヘルスケアといった高付加価値分野において具体的な成果が得られると述べました。

日本の経済産業省(METI)でFTA/EPA交渉を担当する大坪久展氏は、サプライチェーンの強靭化と地域成長を促進するために、FTAを実務的に活用する必要性を強調しました。
同氏はまた、地域の不確実性が高まる中で、調整された実践的な通商戦略の必要性を指摘しました。特に中小企業にとって、FTAが目に見える商業的価値を生み出すことの重要性を強調し、サプライチェーンの強靭化や持続可能な地域成長におけるFTAの役割を述べました。
セッションのハイライト
最初のセッションでは、MJEPA、AJCEP、RCEP、CPTPPといったマレーシア・日本貿易を規定するFTA枠組みの概要が紹介されました。MITIのニク・モハマド・サリヒン・ニク・ムスタファ氏は、製品特性やサプライチェーン構造に応じて、企業がどのように異なるFTAを戦略的に活用できるかを説明しました。続いて、JETROクアラルンプール事務所のカーシン・タイ氏が、マレーシアと日本間のFTA利用動向について解説しました。
また、MITIのモハマド・ナイム・オスマン氏は、SMEsがFTA利用の障壁として挙げることの多い原産地規則および認証手続きについて、詳細なガイダンスを提供しました。
企業事例として、ネスレ・マレーシアのヌル・ダリラ・アブドゥラ氏が、体系的なFTA活用がマレーシア・日本間の事業拡大をどのように支えているかを紹介しました。その後、MATRADEのマズラン・ハルン氏は、日本の「シルバーエコノミー」などの高成長分野に焦点を当て、日本市場では小規模から始め、長期的な信頼構築のために厳格な品質基準を維持することの重要性を強調しました。
さらに、日本アセアンセンターの石田靖より、半導体、グリーン技術、ヘルスケア関連製品など、日本のGXおよびDXといった構造的ニーズに合致する高付加価値の製品・サービスを通じて、マレーシア企業には日本市場で大きな成長機会があるとの説明がありました。
活発な参加とネットワーキング
セッションを通じて、参加者はコスト分析、関税免除手続き、コンプライアンス上の課題など、実務的・技術的な質問を積極的に行い、実践的なガイダンスに対する強いニーズが示されました。
参加者からは、MJEPA、RCEP、CPTPPといったマレーシア・日本貿易に利用可能なFTAへの理解が大きく深まったとの声が寄せられました。また、製品特性や事業ニーズに応じた最適な協定の選び方、原産地規則や原産地証明書(COO)要件、関税削減による収益改善効果について理解が進んだとの評価もありました。さらに、FTAを活用した対日輸出に対する自信の向上、社内での知識共有の促進、高齢化が進む日本市場向けのヘルスケア関連製品など新たなビジネス機会への認識向上が挙げられました。
今後に向けて

日本アセアンセンター平林国彦事務総長は、ASEANと日本の間における貿易・投資機会を中小企業が円滑に活用できるよう支援するための今後の取り組みについて言及しました。
日本アセアンセンターは、引き続き関係機関と連携し、的確な市場情報の提供、人材育成プログラム、ビジネスマッチング機会を通じて、戦略的なハブとしての役割を果たしていきます。今後も、企業の実務上の課題に寄り添いながら、複雑な貿易協定を具体的なビジネスメリットへと転換する支援を継続していきます。