環境的に健全で持続的な開発を促進するため、マレーシア政府は環境保護の法律的・制度的枠組を設けています。投資家は、事業計画の初期段階において「環境」という要素を考慮することが奨励されています。汚染防止に努めるということは、汚染防止を生産工程の一部ととらえ、既存の企業が排出物の発生を最小限に抑えるべく生産工程を再構築し、さらには極力排出物の再利用を図るということも含まれます。
1. 政策
マレーシアの環境政策は、環境に対して配慮した持続可能な開発を通じ、マレーシアを経済的、社会的、文化的に発展させるとともに人々の生活の質を向上させることを目的としています。
環境政策は、下記の達成を目標としています。
- 現代そして次世代にとっての、清潔、安全、健康的、且つ生産的な環境。
- 全ての社会構成員の効果的な参加による、マレーシア独特の多様な文化と自然遺産の保全。
- 持続可能な生活様式と持続可能な消費と生産のパターン。
- マレーシアの国家環境政策は、下記に重点を置いています。
- 最高のモラルと倫理観にもとづく環境への配慮と尊重。
- 生物多様性の完全性と生命維持システムを確保するため、自然生態系の保全。
- 経済発展と人的資源の発展という目標を追求しつつ、生産性そして環境の質の継続的向上。
- 資源基盤を維持し環境悪化を防ぐための、天然資源利用管理。
- 環境保護のため、全てのセクターの政策、目的、役割を計画・実施する際の、環境要素の統合。
- 環境保護管理における民間セクターの役割の強化。
- 政府および民間の意思決定者、資源の利用者、非政府組織(NGO)、一般市民が、自らの活動を策定・計画・実施する際の、環境保全への最大の配慮と責務の確保。
- 環境保全と環境向上に対する地域的および世界的取り組みに、積極的かつ効果的な参加。
2. 環境に関する必要事項
1974年環境基準法と付属規定は、環境インパクト・アセスメント、事業用地評価、汚染防止、モニタリング、自己責任による実施を要請しています。産業活動実施にあたっては、下記について環境局事務次官の事前認可を取得する必要があります。
- 規制された事業に対する環境インパクト・アセスメント
- 規制外事業に対する用地適性評価
- 書面による建設許可
- 焼却炉、燃料燃焼設備、煙突の設置に対する書面による認可
- 規定建物や規定乗物の占有・運営ライセンス
2.1 規制対象事業に対する環境インパクト・アセスメント
投資家は、1987年環境基準(規制対象事業)(環境インパクト・アセスメント)条例に基づき、下記の事業活動に対して環境インパクト・アセスメント(EIA)が義務付けられていることに留意する必要があります。
(i) 農業
- 森林用地を農業生産用に使用するための500ヘクタール以上の土地開発計画。
- 100世帯以上の移住を伴う農業計画。
- 他の農業用への変更を含む、500ヘクタール以上の農業用地開発。
(ii) 空港
- 空港の建設(2,500メートル以上の滑走路を持つもの)。
- 州立あるいは国立公園の中における滑走路の建設。
(iii) 排水路および灌漑
- 表面積が200ヘクタール以上のダムや人工湖の建設、湖の人為的な拡張。
- 100ヘクタール以上の湿地帯、野生動物生息地、あるいは原生林における拝水路の建設。
- 5,000ヘクタール以上の灌漑事業。
(iv) 土地の埋め立て
50ヘクタール以上の海岸埋め立て工事。
(v) 漁業
- 漁港の建設。
- 年間水揚げ量が50パーセント以上増加することが見込まれる港の拡張。
- 50ヘクタール以上のマングローブ湿原の伐採を伴う土地利用型の水産物の養殖。
(vi) 林業
- 50ヘクタール以上の高地森林地域を他の利用目的に転用する場合。
- 都市の上水道用、灌漑用、水力発電用の貯水池の集水地域内にある森林、または、州立・国立公園や国立海洋公園の隣接地にある森林の伐採、または他の利用目的に転用する場合。
- 500ヘクタール以上の木材の伐採。
- 50ヘクタール以上のマングローブ湿地帯を、工業用、住宅用、農業用目的に転用する場合。
- 国立海洋公園の隣接島におけるマングローブ湿地帯の伐採。
(vii) 住宅
50ヘクタール以上の住宅開発。
(viii) 工業
- 化学 – 単一製品および複合製品を合わせた生産能力が1日あたり100トン以上の場合。
- 石油化学 – 全ての規模
- 鉄金属
– 初期製錬:
アルミミウム
‐全ての規模
銅
‐全ての規模
その他
‐1日あたり50トン以上の生産 - 非金属セメント: ‐クリンカーで1時間あたり30トン以上
石灰: ‐生石灰回転釜で1日あたり100トン以上、または立て釜で1日あたり50トン以上 - 製鉄・製鋼 – 生産用の原材料として1日あたり100トン以上の鉄鉱石が必要な場合か、生産用の原材料として1日あたり200トン以上の鉄のスクラップを使用する場合。
- 造船所 – 5,000トン以上の載貨重量を持つ船舶の製造。
- パルプ・製紙産業 – 1日あたり50トン以上の生産。
(ix) インフラストラクチャー
- リクリエーション用海岸に排水を流す病院の建設。
- 50ヘクタール以上の中・重工業向けの工業団地の開発。
- 高速道路の建設。
- 国道の建設。
- ニュータウンの建設。
(x) 港湾
- 港湾の建設。
- 年間荷役能力を50%以上拡大する港湾の拡張プロジェクト。
(xi) 鉱業
- 250ヘクタール以上の採鉱権を有する新鉱区における鉱業開発。
- アルミニウム、銅、金、タンタルを含む鉱石の精製処理。
- 50ヘクタール以上の砂の浚渫。
(xii) 石油
- 石油・ガス田開発。
- 長さ50キロ以上の海底・陸上パイプラインの建設。
- 石油・ガスの分離・加工・出荷・保管のための設備の建設。
- 精油所の建設。
- 商業・工業・住宅地域から3km以内に位置し、合計60,000バレル以上の貯蔵量を備える、ガソリン、ガス、デイーゼルの貯蔵庫(給油所は除く)の建設。
(xiii) 発電所および送電施設
- 10メガワット以上の能力を持つ、化石燃料燃焼によりスチームを発生させる発電所の建設。
- 以下のいずれか、あるいは両方の特性をもつダムおよび水力発電所の建設。
* 高さ15メーター以上で、付帯設備が40ヘクタール以上のダム。
* 400ヘクタール以上の表面積を持つ貯水池。 - 複合サイクル型の発電所の建設。
- 原子力発電所の建設。
(xiv) 採石場
砂利、石灰石、シリカ珪岩、砂岩、大理石、建築装飾用石材を、既存の住宅地、商業地、工業用地から3キロメートル以内で採掘する場合。または、住宅地、商業地、工業用地としての開発が許可されている地域内でのこれらの採掘。
(xv) 鉄道
- 新しい路線の建設。
- 支線の建設。
(xvi) 運輸
MRTの建設。
(xvii) リゾート・レクリエーション開発
- 海岸リゾート施設や、80客室以上のホテルの建設。
- 50ヘクタール以上の高原避暑地やホテルの開発。
- 国立公園内の観光施設やレクリエーション施設の開発。
- 国立海洋公園と定められた地域内の、観光施設やレクリエーション施設および島の開発。
(xviii) 廃棄物処理と処分施設
- 有害危険廃棄物。
・ 焼却所の建設(自社敷地内)。
・ 再生工場の建設(自社敷地外)。
・ 汚水処理所の建設(自社敷地外)。
・ 安全な埋め立て施設の建設。
・ 貯蔵設備の建設(自社敷地外)。 - 地方自治体からの固形廃棄物。
・ 焼却炉プラントの建設。
・ 堆肥プラントの建設。
・ 再生またはリサイクル・プラントの建設。
・ 地方自治体からの固形廃棄物用埋め立て施設の建設。 - 地方自治体の下水。
・ 下水処理プラントの建設。
・ 海への排水口の建設。
(xix) 水の供給
- 表面積が200ヘクタール以上のダムおよび貯水池の建設。
- 1日あたり4,500立方メーター以上を供給する産業用、農業用または都市への供給を目的とした地下水の開発。
2.2 特定事業以外に利用される用地の適性評価
環境に関する認可を受けるうえで最も重要な要素は、その用地が当該プロジェクトに適しているかどうかです。当該プロジェクトが当該候補地に適当であるか否かは、告示された土地の構造あるいは地域の開発計画、周辺の土地の利用目的、防御地帯や緩衝地帯の有無、さらなる汚染物質の受け入れ許容能力、廃棄物処理要件などに基づいて判断されます。
環境局(DOE)が、各特定産業に対する適切な緩衝地帯の所在地についての詳細を説明した冊子「産業用地と指定地区のガイドライン」を発行しています。また潜在的に環境に対する危険性を含む産業の場合、事業提案者は、用地の適性を考慮するための資料の一部として環境局に対してリスク分析の提出を要求される場合があります。
2.3 書面による建設許可
下記に示されている事業を施行しようとする方は、事前に環境局の事務次官から書面による許可を得なければなりません。
- 979年環境基準規定(下水排出と工業廃水)の規定4で定められた、新たな排出や排水を生じるビルの建設や工事の施工。
- 1974年環境基準法の19条で定められた、規定施設(天然パーム油製油所、天然ゴム原料の加工工場、特定廃棄物処理・処分施設)となる土地またはビルの建設、あるいは土地またはビルの建設にかかる工事の施工。
*上記の申請にあたっては、所定手数料が必要です。
2.4 焼却炉・燃料燃焼設備・煙突の設置に対する書面による認可
下記に示されている事業を施行しようとする方は、事前に環境局の事務次官から書面による認可を得なければなりません。
- 1978年環境基準規定(クリーンエアー)の規定4と付表1に詳述されている施設の居住地域周辺への新規設置。
- 1978年環境基準規定(クリーンエアー)の規定36と規定38に示されている、1時間に30kg以上の微粉燃料や固形燃料を消費するか、1時間に15kg以上の液体や気体燃料を消費する燃料燃焼設備(焼却炉を含む)の建設、取付け、再設置、改造。
- 不純物を排出する煙突の建設、取付け、再設置、改造。
* 書面による認可の申請にあたっては、手数料は不要です。
2.5 規定建物と規定乗物の占有ライセンス
下記に挙げられた規定建物の占有や運営には、ライセンスが必要となります。
- パーム油の製油所
- 天然ゴムの加工工場
- 特定廃棄物処理・処分施設
2005年8月15日以降、2005年環境基準規則(規定乗物)(特定廃棄物)で定められた規定乗物の使用に際し、ライセンスの取得が義務付けられています。規定乗物として分類されている乗物または船舶は、下記の通りです。
- 乗物の内部にある機械装置により駆動されるもの。
- 陸上または水中での使用のため組み立てまたは改造されたもの。
- 特定廃棄物の移動、運搬、配置、保管のため使用されるもの。
ライセンスの申請は、書面による許可且つ/または認可(2.3 および2.4に記述)の取得後に行われなければなりません。パーム油製油所、天然ゴム加工工場、特定廃棄物処理・処分施設、規定乗物のライセンス発行にあたっては、ライセンス手数料が必要です。
2.6 ガス状排出物と廃水の基準
1978年環境基準規則(クリーンエアー)と1979年環境基準規定(下水排出・工業廃水)によって定められているように、すべての産業は、マレーシアで許容基準として認められた排気と廃水の基準を遵守しなければなりません。
2.7 オゾン破壊物質の規制
オゾン破壊物質(ODS)は、1999年環境基準規定(冷却剤管理)と1999年環境基準規定(ハロゲン管理)により、環境危険物質として分類されています。これらの物質を使用する新規投資は禁止されています。
2.8 特定廃棄物の管理
マレーシアは、有害危険廃棄物の管理に関係した包括的な法規定を制定しました。この規定は廃棄物発生から処理までの一貫した方針に基づいています。特定廃棄物の発生、貯蔵、移動、処理、処分を行う施設は下記に挙げる主要規制に従わなければなりません。
- 2005年環境基準規定(特定廃棄物)
- 2005年環境基準規則(規定乗物)(特定廃棄物)
- 1989年環境基準規則(規定建物)(特定廃棄物処理・処分施設)
- 1989年環境基準規定(規定建物)(特定廃棄物処理・処分施設)
- 1993年税関規則(改正)(No.2)(輸出禁止)
- 1993年税関規則(改正)(No.2)(輸入禁止)
2.8.1 特定廃棄物の環境に関する必要事項の概要
2005年環境基準規定(特定廃棄物)が、2005年8月15日に施行され、1989年環境基準規定(特定廃棄物から切り替わっています。この新しい規定では、付表1に表記された77種類の特定廃棄物は、下記の5つのカテゴリーに分類されています。
- SW1 金属、金属含有廃棄物(10種類の特定廃棄物)
- SW2 主として無機成分を含む廃棄物で、金属、有機物質を含む可能性のあるもの(7種類の特定廃棄物)
- SW3 主として有機物質を含む廃棄物で、金属、無機素材を含む可能性のあるもの(27種類の特定廃棄物)
- SW4 無機成分または有機成分を含む可能性のあるもの(32種類の特定廃棄物)
- SW5 その他廃棄物(1種類の特定廃棄物)
特定廃棄物は、廃棄物排出者の敷地内で貯蔵、再生、処分することができます。これらの活動には、環境局によって発行されるライセンスは必要ありません。廃棄物排出者は、累積廃棄物の量が20トンを超えないことを条件に、自社で排出した特定廃棄物を、排出後180日以内の間貯蔵することができます。しかし、廃棄物排出者は、特定廃棄物を20トン以上貯蔵するために、環境局の長官に書面により申請することができます。特定廃棄物の貯蔵に使用された容器には、最初に特定廃棄物が排出された日付と、廃棄物排出者の名前、住所、電話番号を標示しなければなりません。
土地の耕作、焼却、処分や、再生・貯蔵・処理用自社敷地外施設は、環境局によるライセンスを取得した規定敷地内においてのみ行うことができます。しかし、マレーシア政府とKualiti Alam Sdn. Bhd(産業廃棄物処理事業者)間で1995年12月18日に結ばれた独占事業合意(15年間の独占事業期間)により、自社敷地外での特定廃棄物の処理と処分(焼却、汚水処理、貯蔵、安全な埋め立て)は認められていません。
自社敷地内での特定廃棄物の処理も奨励されていません。必要である場合には、焼却炉の設置の申請は、詳細な環境インパクト・アセスメント報告書の作成とその公表を含め、「マレーシアにおける特定廃棄物処理用自社敷地内焼却施設の設置ガイドライン」(環境局発行)を遵守しなければなりません。
廃棄物排出者は、2005年環境基準規定(特定廃棄物)の規定7(1)で定められているように、規定建物または自社敷地内の処理・再生施設以外の敷地または施設において、特定の施設または処理・処分・再生されなかった工程から発生する特定廃棄物に関して、特定廃棄物処理の特別マネージメント申請をすることができます。
3. 環境マネージメントに対する優遇措置
第2章の「環境マネージメントに対する優遇措置」をご参照ください。環境マネージメントに関する詳細については、環境局(「連絡先住所‐関連団体」参照)にお問い合わせください。