3. 労働集約的部品産業

人口がわずか600万人足らずのラオスでは、輸入代替型の工業を育成するには規模の経済が働きにくいことは確かに一般論として正しい。また外洋に面する港がないことが輸出や輸入のコストを押し上げているのも事実である。このような不利な立地条件を制約条件とせず乗り越えることのできる外国直接投資のタイプの一つは、タイに進出している日系部品産業群である。1960年頃から日系企業がタイに進出しはじめ、現在ではその数はおよそ5,000社に達するまでに増大した。経済の発展につれてタイでは中間所得層の割合が増大しているが、これは賃金の上昇によってもたらされたものであることに間違いない。世界に通用する高品質と高いコスト競争力を誇る日系企業は、人件費等の生産コストの高騰により、在タイ日系企業はコストの削減に早晩取り組まざるを得ない状況に直面している。カメラや携帯電話、VTRなどのハイテク商品は数多くの軽量部品から組み立てられているが、その生産工程は必ずしも資本集約的に生産されているわけではない。むしろ部品のいくつかは労働集約的な生産方法が選好されている。タイで比較優位を失いつつある労働集約的な部品の生産部分を隣国ラオスへシフトさせることができれば、部品生産が補完され、タイの部品産業の価格競争力が再びよみがえるであろう(鈴木[2004:25-26]。

ラオスへ進出を意図する部品産業はタイで工場を設立し操業してきたいわば老舗である。AFTAの枠組みのなかでどの部品をどの国・地域で製造するかを決定するのは、あくまでも戦略本部の立地するタイ工場である。タイ工場を全面的に閉鎖し、ラオスへ逃避するというゼロ・サム・ゲームではなく、現在生産している部品のなかで労働集約的な部品の生産だけをラオスへシフトさせ、できた部品をタイ工場へ送り返す。たとえば携帯電話のバイブレーターや家電用マイクロチップ、デジタルカメラのフラッシュに使うトリガーコイルやワイヤー・ハーネスなどの自動車部品など、ハイテク製品を構成する労働集約的な部品をラオスで製造し、タイ工場で他の部品と合体する。タイ工場はこれらの部品を(1)タイに立地するSONYや東芝や日立、ノキアなどへ、(2)自動車部品であれば、同じくタイのトヨタ、ホンダ、日野、いすずなどへ、あるいは(3)外国の自社工場等へ輸出する。このように販路が確定しているため、ラオス工場ではまとまったロットが受注でき、規模の経済が働く。タイ工場があくまでも核としての機能をもち、ラオス工場から搬入された部品をタイ工場でさらに他の部品と組み合わせたりしつつ、発注元の親会社に納入する。したがってラオス工場はタイから第3国へ輸出することを考える必要がなく、タイ工場へ納入すればそれで任務が完了する。部品を購入し完成品を製造した在タイ日系企業がタイ国内並びに周辺国、日本、欧米に輸出する。在ラオス日系企業は製造した部品の輸出市場を自ら開拓する必要はないのである(鈴木・ケオラ[2005b])。

タイの最低賃金はバンコク地域で150バーツ/日、チェンマイ地域では138バーツ/日であるが、筆者の在ラオス日系企業に対する聞き取り調査によれば、ラオスでは給与に諸手当を含んでもわずか50バーツ/日にすぎない。ラオスの平均賃金水準はタイの3分の1程度であり、ラオスは労働集約的な部品産業の立地に適している(Suzuki・Keola[2005])。ただし人口希薄なラオスへ外国企業が短期間に進出してきた場合、賃金の高騰が起きる可能性がある(大野・鈴木[2000:3-21])。

ラオスにおける外国企業の成否はラオス人労働者へ技術移転にかかっている。タイの日系企業はすでにタイ人トレーナーの養成に成功しており、こうした日系企業等をタイから誘致すれば、タイ人トレーナーがラオス語と語源を同じくするタイ語を使用するので意思の疎通に問題はなくコミュニケーションが容易化され、技術の移転が迅速化される(Suzuki・Keola [2005])。

整理・整頓・しつけ・清潔・清掃の5Sの標語は、ラオスの日系企業の工場においても掲げられるようになってきた。ラオス人労働者の生産性を高めるためには、上記タイ人トレーナーによる日々の技術移転に加えて、期間を集中した研修が必要である。タイの自社工場でこれをおこなえば、物理的距離が近いので移動が容易で、文化・言語的にも類似しているためラオス人研修員を受け入れやすい立地上の優位がある。

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